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リーダーの条件 年上部下へのコーチング

暑い日の夕暮れ時、久しぶりに会う友人と3人、青山で食事をすることに。



約束の時間の5分前にお店の入口に到着すると、
それよりも一足先に到着した友人の後ろ姿がある。
律儀な彼らしいと思いながら、その姿を見つめる。

もうひとりが到着するのを待ちながら、彼の最近の話しを聴く。
ニカっという特有の明るい笑顔を、時々見せて話す彼の話しは、仕事や家族の近況も含めて、毎回色々な示唆に富んでいて面白いと感じる。

友人は、個性的で大手企業の管理職なのだが、一見するとそういう風には見えない。
ジャージ姿で、顔を赤くして汗をダラダラかき、額にねじり鉢巻のように、タオルを巻いて飲んでいる姿などを見ると、威勢のいい大工の棟梁にも見える。

さて、今年の春頃に、新しい部署の管理職となった友人の部下は年上ばかりらしい。
何と10名近くいる部下のうち、1名を除いて全員が年上。

「え~、殆どが年上!がーん それは、すごいね。」

「大変ですよ...。それはもう。」とつぶやく友人。

「それでどうやって、マネジメントしているの?」という私の質問で、実に興味深い彼の体験談を聴くことになった。

一番年上の部下は彼よりもはるかに年長で、20歳近く離れてる。
そして、唯一年下の部下は、彼よりもずっと若いが、問題のある部下で、困ったチャンらしい。
しかも、チーム全員が、友人の着任当初、現在のチームが嫌で、それぞれが、他の部門への異動を希望していたそうな。

しかし、引き受けたからには、きちんと成果を創りたいと思い、
とにかく頑張ろうと思ったと言う。

一番年長の部下X氏は、長い管理職としての経験があり、結構頑固一徹なタイプ。
私の友人に対しても、ミーティング中、
「君のやり方は間違っている」、「それは違う」といった指摘を、部下の前で度々していたそうだ。

そこで、友人はX氏とミーティングを設けることにした。
X氏の考え方など、汗をかきかき、じっくりよ~く聴いた。

その上で友人は改めて、
「僕は、このチームの責任者として、こういうことをチームで実現したいと思っています。」
という彼のチームのビジョンや方針をハッキリと伝えた。

そして、それについてX氏に「協力して貰えるよう"お願い"」したそうだ。

"部下といっても年上なんだから、頼む→お願いするのが当たり前でしょ"、というのが友人の考え方。

その考え方のベースには、「リーダーなんて、メンバーが動かなかったら、何にもできない。相手が協力してくれなければ、何も始まらない。」という考え方がある。

だから、相手に対する感謝の念というのは、変な話し、いつもどこかにあるんですよ。
僕はそういう意識って、言葉には出さなくとも、相手にも伝わると思うんですよね~。
」と友人はビールを飲みながら、しみじみ言う。

彼はリーダーシップを取る上では、「感謝の念」を持つことが、やっぱり大事と感じるそうだ。

ちなみに、「相手が年下部下だったら、どんな風に頼むの?」と私が好奇心から聴くと、
友人は、「一緒にやろうよ!にかっって言うよ。」と当然のように答えた。

その後、友人はじっくりと最年長部下X氏を観察し、何かしら自分との共通項を探し始めた。

そしてある日、ふと、彼の話し方の特徴、地方出身者と思えるわずかなアクセントに気づいて、思い切って尋ねてみた。

「○○さん、失礼ですけど、どちらのご出身なんでしょうか?」

そして、X氏の答えを聞いて、友人は驚いた。
何と、自分と同じ県の出身で、しかも彼が育った町は、友人もよく知っている町だった。

「え~!!ぎょぎょ」という驚きが二人の間に走ったのは言うまでもない。

そこから、友人とX氏の距離はイッキに縮まった。
友人は、何か彼が興味を示しそうな、地元に関する記事やイベントがあると、さりげなくX氏に情報を渡すようにしている。

そして、X氏は、ともするとその頑固さからチーム内で孤立し浮きがちだったのだが、
友人はなるべく、チーム内で、X氏が孤立しないよう要所要所で配慮し、様々なことに橋渡しを心がけた。

更に、それらと同時並行的に、他の年上部下にも、基本的には同じ対応を取った。

じっくりと相手の話しをよく聴き、友人がチームで実現したいと思っていることを伝えて、「協力をお願いする。」
そして、部下の一人ひとりをじっくりと観察し、何かしら自分との共通項や相手の興味を発見し、地道な信頼関係を築いていった。

そして、部下がデータを分析し報告書をまとめれば、上長が集まる場での報告は、必ずメンバーに任せるなど、
実際に彼等の仕事へのモチベーションが高まるよう、彼等の仕事の手柄にスポットライトがあたるよう心がけた。

一段ハードルの高い、難しい仕事については事前に話し合い、
何かしら支援策を必ず立て、最後まで出来るようサポートを行った。

友人は、地道なルーティーンの仕事も含めて、必要な時には何かしら部下を手助けした。

そうこうする内に、チームの雰囲気はガラリと変わって明るくなり、誰もチームを出たいと言わなくなった。

ふ~ん、なるほど。
「積極性」と「謙虚さ」が微妙にミックスしている友人らしい話しと感じた。

彼には、昔から続けて、ずっとやってきていることがある。

非常に基本的なことだが、「挨拶」である。

相手が返事しようとしないに関わらず、自分から元気よく明るい声で、必ず全員に声をかけるそうだ。

「そうやって、何があっても自分から、毎回毎回、人に声をかけていると、必ずそのうちに向こうから声をかけてくるようになるんだよね~。」
と明るくニカっと笑いながら言った言葉を、ハッキリと私は憶えている。

「それっていつからやっていること?」とその時ふと訊ねたら、彼はこう答えた。

「中学校時代かなぁ~。」

年季が入っている。むむっ

「何がきっかけでそうなったの?」と再び私。

「実はさぁ、僕って転校生だったんだよね。それで、最初はクラスの番町格みたいな奴やその取り巻きに"なんだコイツ"って感じでいじめられたんだよ。」

「あ~、いるよね、そういういじわるな子、それで、どうしたの?」

「それでも、気にしないでニコニコ笑って、他の皆に声をかけてたんだよね。そしたらさ~、しばらくしたら、いつの間にかクラスの殆どの人間が、僕と仲良くなっちゃって。結局、番町格だった奴よりも味方が増えちゃったんだよ。」

「それって面白いね~。何だか、北風と太陽の話し、思い出すわ。」

「アハハ、そうかもね。でもさ、そしたらさ、いつのまにか番長の方から近寄ってきてさ、仲良くなっちゃったんだよね。」


ねこねこねこねこねこねこねこねこねこ


職場内で部下を育成したり、チームをまとめて一つの方向性に導き成果を創っていくことは、リーダーとしての意識が高い人であれば、日々考えるテーマだと思う。

それぞれのやり方があると思うが、多くの仕事の出来るリーダーに共通する点は、「部下から信頼されている」ということだと、友人との話しで改めて感じた。

以前、安藤忠雄さんも講演会で、「リーダーは何かやりたいと思っても、チームがなくちゃ、成果は創れない。だから仲間とのパートナーシップはすごく大事なんですよ。」と語っていた。
チームというよりは、個のイメージ強い建築家の方ゆえに、その話しは新鮮に響いた。

そんなことを考えていたら、
翌日の朝、友人からのお礼のメールが届いていたことに気づいた。

> さて、実はここ最近仕事で、「なんなんだよ!」って、
> なんでもかんでも俺のところに仕事を回すんじゃない!
> って状態でかなり怒りモードだったので、昨日は本当に
> リフレッシュできました。感謝です!


私は、友人から色々と興味深い話しを聴けて感謝の気持ちを持っていたのですが、
先に彼からの「感謝」の言葉が送られているとは。

見習わなくては。


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